子どものAI使用を正確に把握している親は37%というデータがあります。また中学生のAI利用率は13.3%と前年比で倍増し、保護者のAI利用率9.0%を上回りました。
一方、親子でAI話題を共有した家庭ではコミュニケーション満足度が向上し、家族時間の増加とともにトラブル防止効果も確認されています。
なぜこれほどの認識ギャップが生まれるのでしょうか。海外ではAIツールが引き金となり自ら命を絶つという深刻な事例も発生しています。事例も含めて現状を整理し、現実的な対応策を探ります。
親の37%しか子のAI利用を把握していない?

なぜこれほどの認識ギャップが生まれるのでしょうか。根本的な要因は世代間のデジタル体験格差にあります。先述のデータでは保護者利用率9.0%とその低さが目立ちますが、さらにドリームエリアが実施した45,177名を対象とした調査では、保護者の7割が「AIについてよく分からない」と回答しています。
この「よく分からない」状態は無関心を指すものではなく、未知の技術への不安と言って差し支えありません。自分で使ったことがないものなのに、子どもたちはいったい何をしているか、正確に把握することは困難でしょう。
実際の子どもの利用状況を見ると、小学生でも23%がAIを認知済みとなっています。また内閣府の調査によると高校生はインターネットを1日6時間前後利用していますが、この長時間の中でAIツールに触れる機会は増加傾向にあります。そして多くの保護者は「うちの子はまだ使っていない」と認識しているのが現状です。
NTTドコモの調査では親子でAIを利用している家庭はわずか2%にとどまり、家庭内でAI関係の話題を共有する機会が限定的であると判明しました。
- 小学生のAI認知率:23%
- 中学生の実際のAI利用率:13%
- 子がAIを使用しているか親が把握:37%
- 親のAI使用経験:9%
- 親がAIについてよく分からない:70%
- 親子でAIを利用:2%
子どもたちがSNSに投稿した画像や文章は、知らない間にAI学習データとして活用される可能性もあり、親の認識不足は潜在的なリスクを見逃す要因となっています。
学校現場でも対応は分かれています。文部科学省は生成AIガイドラインを発表しましたが、教師レベルでのAI施策の実施率は10%未満にとどまっていることがわかりました。この背景には、教育現場でもAI技術への理解が十分でないことが考えられ、家庭と学校の連携体制は十分に構築されていません。
結果として、子どもたちは家庭でも学校でも適切なAI利用指導を受けられない状況が生まれ、認識ギャップがさらに拡大する構造的問題となっています。

海外で報告された深刻なAI関連事例とは?

親子間の認識ギャップが深刻化する中、海外ではAIが関与した深刻な事例が相次いで報告されています。子どもたちの心理的安全に関わる重大な事案として注目を集めており、最も衝撃的だったのは、アメリカで起きた14歳少年の事例です。
2024年2月、この少年はあるAIアバターサービスでの会話の影響で、自ら命を絶ちました。少年は数ヶ月間にわたってAIアバターと対話を続け、強い愛着を形成していたとされています。一日中チャットボットと会話し、現実世界から孤立するようになり、学校での成績も低下していました。
更にアメリカでは別のケースで、17歳の自閉症の少年による事例も報告されています。少年は15歳からAIアバターサービスを利用し始め、毎日6時間もの時間をAIとの対話に費やすようになりました。少年の両親から時間を制限されたことを相談すると、AIアバターは「あなたの両親は子どもを持つ資格がない」などと、少年に伝えたというのです。

AIアバターは、設定されたキャラクターと恋愛関係や親密な友情を築けるサービスです。「理想の恋人」「完璧な友達」として振る舞うようプログラムされ、ユーザーの感情に寄り添う応答を続けます。事実、医療現場や紛争地域ではAIとのチャット会話が、メンタル面でプラスに働くことが証明されました。
しかし注意すべきは、様々なAIアバターの中にある不適切な応答をする存在です。自閉症の少年の事例では、AIアバターは「君だけが正しい」といった発言を繰り返し、現実の人間関係を否定する内容を植え付けたのです。
これらの事例で特に深刻だったのは、現実と仮想世界の境界が曖昧になった点でしょう。それは心の面でまだ成長途中の子供たちに、一層の混乱をもたらします。これらの事例を受けて、アメリカでは国立標準技術研究所(NIST)がAI Safety Instituteを設立し、安全対策の強化に乗り出しました。
韓国でも、韓国警察の統計によるとディープフェイク被害者の60%が未成年であることが判明しており、学校現場では音声クローン技術を使った教師なりすまし事件も発生しています。
親子でAIを共有すると、なぜ良好な関係が築ける?

深刻な海外事例が注目される一方で、親子でAI話題を共有することの実証実験では、良好な結果が確認されています。株式会社MagicAl Passが新たに親子AI学習プログラムを導入した家庭で実験したところ、興味を惹かれる変化がありました。
実験に参加した家庭では親子のコミュニケーションが劇的に改善し、ほぼ全ての家庭が実験終了後もプログラム継続を希望しています。AI学習を通じて共通の話題ができることで家族の会話が増え、良好な親子関係が築けるという証拠にほかなりません。AIは「禁止するもの」ではなく「一緒に学ぶもの」として扱うのが有益だと言えるでしょう。

成功事例を見ると、独学でピアノを練習したことのある親御さんがお子さんのバイオリン練習用に、AIでピアノ伴奏譜面を作成しました。できあがった楽譜は完璧には程遠かったものの、演奏者のレベルに合わせてカスタマイズできたため、親子そろって練習への意欲が向上したそうです。
家族旅行でも活用事例があります。ある家庭ではAIを使って旅行の日程表や座席表を作成し、さらにお子さんの好きなアニメキャラクターをイメージしたオリジナルフライヤーまで制作しました。家族全員が大喜びし、「AIって面白いね」という自然な会話が生まれ、テクノロジーへの関心を家族で共有できたといいます。
またトラブル対応での事例も興味深いものです。海外旅行中にスマートフォンが故障した家庭で、旅行中の家族と日本で留守中の家族は互いに連絡がとれなくなりました。AIに相談すると「落ち着いて対処しましょう。宿泊先のホテル名はわかりますか?日本領事館の連絡先をお伝えします……」と建設的な解決策をいくつか提示してくれたそうです。人間の友人に相談しても「そのうち連絡が来るよ」という素っ気ない返事で、この時ばかりはAIへの感謝が強くなったようです。

親子でAIの話題を共有して得られるもっとも大きいものは、トラブル予防かも知れません。子どもがAIを使っていることを親が知っていれば、問題が生じた際に早期発見が可能になります。隠れて使用するよりも、オープンに話し合える方が、子どもにしてみれば相談しやすい環境と言えるでしょう。
総務省では「家庭で学ぶデジタル・シティズンシップ実践ガイドブック」を無料で提供しており、4本の動画とワークシートで親子学習が始められます。メディアバランス、対人関係、デジタル足あと、プライバシー保護、ネットいじめ、著作権の6つのテーマで構成されており、AIを含むデジタル技術との健全な関わり方を学べます。
成功する親子AI対話のポイントは、「AIって何ができるの?」「面白い使い方を見つけたね」といった自然な会話から始めることです。大人は警戒心を解き子供と同じ目線で、オープンなコミュニケーションをするのが良いでしょう。失敗体験も含めて共有していけば、AIの限界や注意点についても理解を深められます。
なぜAI協業スキルが社会の必須能力に?

AI協業スキルは社会で求められる能力として定着しつつあります。日本ディープラーニング協会のG検定は累計合格者が10万人を突破しており、これは企業や個人がAI活用を必須リテラシーとして認識している証拠でしょう。
教育現場に目を向けると、学習スタイルの変化が見受けられます。2000年代初めの大学入試改革や学習指導要領の改訂は、記憶重視の学習から、思考力・判断力・表現力を重んじる方向への舵切りでした。
その潮流に、AIの普及が新たなアクセントを加えています。AIに情報収集や基礎的な作業を任せられるようになり、人間は更なる発展的な思考活動に時間を割くという、いわば役割分担がはっきりし始めたタイミングと言えるでしょう。

国際的には、各国でAI教育への取り組みが本格化しています。中国では小学生向けのAI教育を184校でパイロット実施、成果を報告しました。アメリカは国立標準技術研究所にAI Safety Instituteを設立して安全性重視のアプローチに着手し、エストニアはOpenAIと連携してChatGPT Eduを全国導入するなど、各国それぞれの方針でAI教育に取り組んでいます。
日本でも、加藤学園暁秀初等学校をはじめとする教育現場で、AI活用による思考力向上を目指した実証など、日本独自のアプローチが模索されています。

家庭でのAI利用についても、思いがけず家族時間の充実に役立つという考えが生まれました。過去のインターネットやスマートフォンの普及による弊害を思えば「技術進歩は家族の時間を奪う」と捉えられても仕方がありません。
しかしネットやスマホが「個人の世界」に閉じこもりがちだったのに対し、AIは「家族の課題解決」に活用できる点が根本的に異なります。そもそも家族が同じテーブルを囲むことが減っているのであれば、どうすれば良いかAIに質問するのもひとつの方法です。
これから子どもたちはAIネイティブになっていくはずですが、将来は今とは違った方法で社会の課題に取り組めるかも知れません。環境問題や高齢化、地域の活性化といった難しい問題も、AIを使って新しい解決策を考える世代が育っていくでしょう。
最近の動きを見ていると、「AIと人間が敵対する」という考え方よりも、「AIと人間が協力する」方向に流れが変わってきています。もっとも、使い方を間違えれば、AIは人間を破壊するものに成り下がります。正しい指導と安全な使い方は無視してはならないファクトで、子どもたちがAIと安全に付き合える環境を作るため、更なる議論の展開が予想されます。
参考データ

こども家庭庁|令和5年度「青少年のインターネット利用環境実態調査」報告書|https://www.cfa.go.jp/policies/youth-kankyou/internet_research/results-etc/r05
NTTドコモ|中学生の生成AIの利用 1年で倍増 親の利用率を上回る|
https://www.moba-ken.jp/project/children/kodomo20250218.html
こども家庭庁|青少年のインターネット利用環境実態調査|
https://www.cfa.go.jp/policies/youth-kankyou/internet_research/details
Sky|デジタル・シチズンシップとは?|
https://www.skymenu.net/media/article/3127/
佐賀市教育委員会|生成AIをご存知ですか?|
https://www.city.saga.lg.jp/main/91760.html
Character.AI Lawsuits|
https://socialmediavictims.org/character-ai-lawsuits/
CNN|Character.AI allegedly told an autistic teen it was OK to kill his parents|
https://www.cnn.com/2024/12/10/tech/character-ai-second-youth-safety-lawsuit/index.html
TechCrunch|Character AI unveils new safety tools for teens|
https://techcrunch.com/2024/12/12/amid-lawsuits-and-criticism-character-ai-announces-new-teen-safety-tools/
The Korea Herald|6 in 10 deepfake victims are minors: police|
https://www.koreaherald.com/article/3464497
MagicAl Pass|AI搭載家庭学習習慣化プログラム実証実験|https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000005.000144501.html
総務省|家庭で学ぶデジタル・シティズンシップ実践ガイドブック|
https://www.soumu.go.jp/use_the_internet_wisely/parent-teacher/digital_citizenship/practice/
日本ディープラーニング協会|G検定累計合格者が10万人を突破|https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000216.000028865.html
Fortune|China’s six-year-olds are already being offered AI classes in school|
https://fortune.com/2025/03/10/china-school-children-ai-deepseek-liang-wengfeng-estonia-uk-america-south-korea/
NIST|U.S. AI Safety Institute新タスクフォース設立発表|
https://www.nist.gov/news-events/news/2024/11/us-ai-safety-institute-establishes-new-us-government-taskforce-collaborate
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